水と衛生の役割とは?

水,サニテーション,衛生行動の役割の模式図
ザンビア都市周縁地域の公共水道栓

水と衛生は糞便からのバリアー

水と衛生は、人々がし尿およびし尿に由来する微生物にさらされる機会を減らすための仕組みである。

し尿,特に糞便には,コレラ菌,赤痢菌,腸チフス菌,ロタウイルス,クリプトスポリジウム原虫など,下痢を引き起こす様々な病原性微生物が含まれうる。上図(水,サニテーション,衛生行動の役割の模式図)に示されているように,水と衛生は,こうした病原性微生物を含みうる糞便が人にさらされる(曝露される)のを防ぐバリアーとなっている。適切な水と衛生を確保すれば,世界の下痢の58%が削減されるとの推計もある。下痢が世界の子どもの死因の第2位(WHO, 2014)であることを考えれば,水と衛生のバリアーとしての役割は極めて大きい。

サニテーション

適切なサニテーションがなければ,病原性微生物を含みうる糞便は生活環境中に排出され,拡散する。これにより,生活環境が広範に糞便に汚染され,水や土が汚染されるとともに,糞便に群がるハエは,糞便を運ぶベクターとなる。また,不衛生な排泄により手も汚れる。サニテーションとは,こうした病原性微生物を含みうる糞便を,人の生活から隔離し,封じ込め,処理し,処分あるいは安全に利用する役割を担う。上の模式図では排泄の現場そのものが描かれているが,単にトイレが有るだけでは不十分で,糞便の隔離,封じ込め,処理,処分/安全な利用が実現できなければ,どこかで糞便は拡散する。そもそも生活環境を汚さないようにするのがサニテーションの大きな役割である。

人は一日に1Lから1.5Lの水を摂取するため,飲料水の糞便汚染は糞便由来の微生物の曝露に直接繋がる。サニテーションの不備による生活環境中への糞便の拡散により保護されていない水源は汚染される。汚染から保護された安全な水源の確保は,飲料水由来の糞便曝露の低減に直接的に貢献する。一方,ポンプ付きの掘り抜き井戸や管井を利用しているなど,水源自体が安全な場合であっても,生活環境が汚れていれば,井戸から汲み取って家に溜めている水は手や桶,コップなど様々なモノが触れる中で次第に汚染されていく。採取から利用までの水の安全性もまた重要である。食器に使う水や,食材の洗浄や調理に使う水が汚れていれば,食器や食材を介して糞便由来の微生物は人に曝露する。飲料水以外の生活用水も含めた安全な水は,一層の糞便由来微生物の曝露の低減に繋がる。

衛生行動

衛生行動自体は体やモノを清潔に保つための行動であるが,SDG6での衛生行動は,主として手洗いである。個人差は大きいが,人は意識せずに大人であれば1時間あたり8回程度,幼児であれば1時間あたり20回程度,手を口に触れる(USEPA, 2011, Nicas and Best, 2008)。手は,排泄時に手が汚るのみならず,サニテーションの不備で生活環境が広範に汚染されていれば容易に汚れ,汚れた手が口に触れることで糞便由来微生物が曝露する。あるいは,汚れた手は飲料水,食器あるいは食材を汚し,それを介しても糞便由来微生物は人に曝露する。手洗いは,こうした曝露を防ぐ行動である。衛生行動を必ずしも水によって行う必然性はないが,現状では手洗い,食器洗い,食材洗浄など,衛生行動の多く場面で水が使われているため,清浄な水の確保は衛生行動の効果を高める。

「水と衛生」と健康との関わりを解説した動画。ザンビアの糞便汚染・下痢リスク可視化アクションリサーチのアプリのために作成。

京都大学大学院 アジア・アフリカ地域研究研究科 (ASAFAS) / 京都大学アフリカ地域研究資料センター (CAAS)
水・衛生と環境の研究グループ(原田研究室)