原田英典
博士(地球環境学)
- 京都大学大学院 アジア・アフリカ地域研究研究科 アフリカ地域研究専攻 准教授
- 京都大学アフリカ地域研究資料センター(兼任)
- 公益社団法人 日本国際民間協力会(NICCO) 理事
- 世界保健機関/国連児童基金 水と衛生に関する共同モニタリング・プログラム 諮問委員(UN-Water 衛生と飲料水のグローバル分析・評価(GLAAS) 諮問委員を兼任)
自己紹介
大学時代は京大の体育会のスキー競技部に所属し,スキー(クロスカントリー)に明け暮れてました。今でもスキーが趣味で,テレマークスキーをやっています。雪や山が好きで,大文字や比叡山などはよく登ります。スイス留学時には,同僚たちと4000 m峰の雪山登山を経験したのも良い思い出です。これまでベトナム,スウェーデン,スイスに住んだことがありますが,どの国にも良い思い出があります。アジア・アフリカの調査地への渡航では,その土地を見て,その土地の人たちと話をし,その土地の美味しいものを食べることも楽しみです。
研究のきっかけ
私の原体験ともいえるものは,大学院修士時代の電気・ガス・水道,そしてトイレのない,かつてベトナム最貧困だった集落での生活です。
もともと学部生の時に,し尿分離トイレで分離回収した尿から肥料を作る化学平衡モデル+肥料生成実験の研究をしていましたが,ひょんなことからし尿分離トイレを実際にベトナムの貧困農村に導入するというNGOの話を聞いて,そのNGOのトイレ普及活動に参加しました。5ヶ月ほど現地にいましたが,半分程度の期間は現地の日本人は私一人という状況で,ベトナム人の仲間たちとともに集落にトイレを導入するプロジェクトを実施しました。
滞在していた小屋にはまともなトイレがなかったので,まずは自分たちのトイレを作りました。飲水はボトルの水を購入し,炊事水は雨水を,それ以外は井戸水を使い,水浴びも洗濯も食器洗いも井戸の水を汲みながら生活していました。近所の家にはトイレもなく野外排泄で,使っている浅井戸が汚物や農薬で汚染されていないかと考えながらの生活でした。乾季には井戸もほとんど涸れ,近くの池の底をほったり,沢まで水を汲みに行ったりもしました。
そんな中で,トイレが完成してデモンストレーションをするために集落の人が集まったのを見たときには,達成感のあまりただただ感動していました。トイレを建てた家の人々はほとんどみんなが喜んでいて,とてもやりがいを感じていました。一方で,現場で唯一の日本人であったため,その場で考えて答えなければいけないことも多かったのですが,わからないことだらけで,自分の知識と経験の無さを痛感し,もっと勉強していればよかったと思ってばかりいました。また,集落の乳幼児死亡率は日本とは比べ物にならないほど高く,友人の赤ちゃんがなくなったときには,サイエンスとしての因果関係はわかりませんが,水と衛生の不備が人の命を奪っていることを実感しました。
とはいえ,普段会う人たちはとても生き生きとしており,私自身,周りの人たちと,毎日とても充実した時間を過ごし,帰りたくないとさえ思ったほどでした。帰国する頃には,博士後期課程に進学して,この道の専門家になろうと心に決め,研究者として水と衛生の問題に取り組む現在に至ります。そのフィールドは,東南アジアから,より水と衛生の問題が顕著な南アジアのスラム,そしてアフリカへと広がっていきました。